田んぼで魚が育つ!?
鳥取・八頭町のホンモロコ養殖

鳥取県東部に位置するさんいんみらい事業所(以下、さんいんみらい)。
働きづらさを抱える人を対象とした事業に力を入れています。ここ数年、淡水魚ホンモロコの養殖や原木シイタケ栽培など、第一次産業分野の仕事おこしも、盛り上がってきました。
今回は、この事業所で働く谷本文明さんにお話をお聞きしました。


ホンモロコで仕事おこし

谷本文明さん



――さんいんみらいがホンモロコの養殖に取り組むことになった経緯は?

谷本 私たちの事業所は、行政からの委託現場が多いんですが、2019年頃から「自前の仕事おこしをしよう」というムードが高まっていました。
ワーカーズの仕事おこしは、「協同労働」「地域貢献」がキーワードです。私たちも「八頭町のためになることは何だろう?」と考えたとき、農作物への獣害を減らそうというアイディアが出ました。そこで狩猟免許を取得してみたり、ナマズの養殖をやろうと考えたりと、試行錯誤がありました。
結果的にホンモロコ共和国から、地元の耕作放棄地を紹介してもらったことが縁となり、そこを田んぼから池へと変える作業をして、ホンモロコ養殖をすることになったんです。

ホンモロコ共和国とは
ホンモロコの養殖を推進する八頭町の団体。

八頭町大江地区の山間にある養殖場。もとは田んぼだった。

――ホンモロコとは、どんな魚なんですか?

谷本 ワカサギに似た淡水魚です。琵琶湖の特産品で京都の料亭などで高級食材として食べられていました。
鳥取県で養殖事業が始まるのは、2000年頃、鳥取大学の七條喜一郎先生が八頭町の耕作放棄地でホンモロコ養殖の実験を成功させたことがきっかけです。その後、田んぼでの養殖事業に取り組む地元の人が増え、ホンモロコ共和国ができて、そこを通して鳥取市、倉吉市の学校給食の食材としてまた、京都の料亭へ出荷されています。



春に孵化させたホンモロコ。8月時点ではメダカほどの大きさ。

――谷本さんは、もともと農業関係の仕事をしていたんですか?

谷本 いえ。私は以前京都に本社があるタバコ自動販売機を販売修理する会社に勤めていました。そこが倒産したので2013年に縁あってワーカーズコープに入団。当初は就労支援の現場にいたので、まったくホンモロコ養殖の知識はなくホンモロコ共和国のメンバーに指導、アドバイスを頂きながら一生懸命勉強しました。
そうはいっても、昭和30年代の生まれですから、子どもの頃の遊び場は山や川や田んぼなので自然は身近なものでした。田んぼで遊んだりもしていて、農作業をしている大人たちから、「虫や、爬虫類に気をつけろ」とか、色々教えられたことが今、役に立っています。


地域の力で養殖場をつくる

――養殖場をつくることはとても大変だったのではないでしょうか ?

谷本 さんいんみらいでは、生活保護を受給中の人に「就労準備」として、様々なボランティアを体験してもらっています。養殖場づくりにもボランティアとして入ってもらったんですが、彼らにかなり助けられました。建築土木の経験がある人に重機で田んぼの補修整理の作業を担当してもらったり…。地元の自然に慣れている人ばかりで、「水源があるところには餌となる、蛙がいるためマムシがいる」とか「ハチを驚かすと危険」とか、そういったことを体で知っています。とても心強かったです。
昨年(2021年)から、原木シイタケの栽培も始めたんですが、そのときにも活躍してくれました。森林組合の人に、原木を分けてもらうために、ものすごい急峻な山に登ったんですが、そのときも怖がらないし、原木に菌を植える際のドリル作業なども上手でした。



山からの清流(上)と、それを引く用水路(下)。この水を養殖場で利用している。
シイタケの原木にドリルで植菌する利用者。
養殖場で、ホンモロコをすくって遊ぶ子どもたち。

――はじまってから現在まで、手ごたえはいかがですか?

谷本 ホンモロコ養殖は、初年度の2019年度は、ビギナーズラックから、それなりの漁獲高がありました。その後は不作やトラブルにより難航しています。養殖場の管理で大事なのは「水温・水量・微生物」ですが、これは毎年の天候に左右されます。特に私たちの養殖場は山のそばで、水温が上がりにくいんです。微生物が育たず、魚が人工のエサだけで、がんばって成長しなければならない。そのエサをタニシに食べられてしまったり、サギなどの鳥にもねらわれるし…。大変です。
春に卵が孵化して、養殖のシーズンが始まると、私の休みはなくなります。「水は足りてるかな?」「外敵に食べられていないかな?」と魚が心配で、土日でも池に見に行きます。子どものようなものですね。初年度に育て上げたホンモロコを、ほかの組合員が試食したときも、私は食べられなかったですね(笑)。

学校給食でホンモロコのフライが出ました。

――苦労して育てたホンモロコは、どんなところで食べられているんですか?

谷本 地元の学校給食や子ども食堂にホンモロコが食材として使われています。そのことも嬉しいんですが、2年前には、浜田のサポートステーションの利用者とホンモロコ釣りのイベントをしたことがあり、印象に残っています。簡易コンロを持ちこんで、釣れた魚をその場で衣をつけて、天ぷらにして食べました。ゆずの木が近くにあったので、ゆずを採ってきて添えたら、「カリっとした食感に、酸味が最高」とみんな喜んでいましたね。

――今後の展望を教えてください。

谷本 ホンモロコとシイタケの加工事業を立ち上げたいですね。ホンモロコの甘露煮の真空パックや乾燥シイタケなど…。今年5月には、新しく鳥取市内に就労B型の現場(「縁☆Joy」「Plat×home」)が立ち上がりました。B型の利用者たちにその作業を手伝ってもらえたらいいなという希望をもっています。

サポステとは

地域若者サポートステーション。15歳~49歳までの就学中でない人たちをバックアップする厚生労働省委託の支援機関。

就労B型とは

就労継続支援B型作業所。年齢や体力などの面で雇用契約を結んで働くことが困難な人への就労訓練を行う福祉サービス。

新しい働きかた:031さんいんみらい事業所


2014年開所。鳥取市と東部4町(八頭町・若桜町・岩美町・智頭町)の生活保護被保護者及び生活困窮者の就労準備支援事業や、放課後デイサービス、清掃事業などを展開。鳥取県内のこども食堂を支援する団体で構成される「とっとり子ども未来サポートネットワーク」にも所属。農福連携を軸とした第一次産業の地域おこしにも力を入れる。

取材協力:さんいんみらい事業所
文:さんいんみらい事業所/伊吹百合子

写真:さんいんみらい事業所