私が生きる場を私がつくる #フリースクール #大学 #社会的企業

不登校・ひきこもりの経験者が自ら立ち上げた、映像・デザイン制作を行う創造集団440Hz(以下440Hz)の石本恵美さんにお話をお聞きしました。

不登校・ひきこもり、100%

440Hzの特徴の一つは、メンバー全員が不登校・ひきこもりの経験を持っているというところです。そして、これまた全員が、シューレ大学という一風変わった大学で学びあった仲間でもあります。この二つが440Hzの核にあると私は思っています。

根源的な声を上げ続ける

社名の意味を時々聞かれます。
赤ちゃんが生まれたときの最初の泣き声は、世界中、どの人種、どの民族でも同じ音の高さである、というお話を聞いたことがあるでしょうか? その音の高さが、音楽のチューニングの基本となるラの音、周波数でいうと440Hzなのだそうです。

社名を決めるとき、メンバーの一人から出たこの話に、感動しました。それは他のメンバーも同じだったようで、「根源的な声を無視しないで、ともに創り合う集団でありたい」という思いからこの社名になりました。

働く人に合わせて会社が形を変える

仕事やルールが先にあるのではなく、働くその人自身を大事にする、ということも440Hzの特徴です。

業務内容を説明するとき〈(今は)映像とデザインとWEBの会社〉というふうに、「今は」という言葉を必ずつけます。業務内容に限らず、あらかじめ決まった枠組みがあるのではなく、そこに働く人のありように合わせて、有機的に変化していくのが私たちの職場なのです。

中学が嫌になり不登校

私がなぜ440Hzをつくるに至ったのか、話は中学校までさかのぼります。
中学校2年になったある時、友達から突然無視をされ、クラスで居場所がなくなりました。その他、校則に息がつまり、学校の勉強に意味を感じなくなっていたこともあり、学校に通うことがつらくなっていきました。

母は私のそんな様子を心配して「つらいなら3ヶ月くらい休んだら」と言ってくれて、それでも頑張って行っていたのですが、ある日、行くのをやめました。
その後、母が「東京シューレ」というフリースクールの存在を教えてくれました。

フリースクールでは、最初は友達と遊んだり、行事などに参加したりしていました。最後の方は、屠殺場の見学や米軍基地反対運動をしている人たちに会うというフィールドワークに参加し、ジェンダー講座を立ち上げて、熱心に参加しました。

自分から始まる学び・表現の場

そんなある日、フリースクールのスタッフの朝倉さんから電話がかかってきました。「めぐちゃん、新しい学びの場をつくる話し合いがあるんだけど、関心ある?」。それは、誰もが自由に学び表現できる「自由大学」をつくるというお話でした。話し合いを重ね、半年間の準備期間を経て、シューレ大学※が出帆しました。私は最初の6人の学生の一人として参加しました。

シューレ大学出帆プレイベント

シューレ大学 18歳以上であれば資格や年齢・国籍問わず、〈自分から始まる研究や表現〉を学べる場所です。それぞれが積み重ねていって、一人一人の生き方の土台をつくる場所でもあります。その運営も学生主体で、スタッフと共に話し合いをベースに行っています。

自分が何に惹かれるのか、模索しながら学ぶ

最初の年は、イギリスの紅茶文化に関心があったため、紅茶がどのようにイギリスの文化として定着していったのかを知りました。最終的にはイギリスに行き、イギリスに暮らす人がどう紅茶と付き合っているのかのアンケートを取り、結果をまとめ、報告会で発表しました。

次に取り組んだのは、ブラックミュージックです。R&Bやファンクを聴き、大学のニュースレターに連載記事を書きました。その後も歌うためのボイストレーニングを受けるなど音楽への関心は抱きつつ、その次にはニューヨークから来たアートセラピストに教えてもらって白黒写真の撮影や紙焼きにハマったりと、関心は移っていきました。

映画との出会い

映画を見るということに集中的に取り組みたいという学生が、1年かけて101本の名作を見る、というプロジェクトを企画しました。古今東西の多様な映画を見る中で、「私から始まる映画があってもいいのではないか」と制作意欲が湧きました。

そして作ったのが、最初の作品「温色」※です。学生や、映像を専門とするアドバイザーに見てもらい、意見をもらうことで、映像表現に関する手応えがありました。そして、もっと作りたいと思うようになりました。ミュージックビデオ、コマーシャル、ドキュメンタリーなどをその数年間で立て続けに作りました。

「温色」より

温色:女性の生きづらさを悪夢などのイメージで描いた台詞のない短編映画。

ある時、シューレ大学のイベントに来た人権活動家の方が、私たちの映像作品を見て、外国人の地方参政権に関しての国会議員のインタビュー映像の制作を依頼しました。とても緊張しながら撮影・編集をしました。この経験は、映像制作を通して、人と出会い・関わることに関しての私の原点になっています。私は、自分自身のこれまでの経験から、女性、日本国籍を持たずこの国に暮らす人、LGBTQなど、マイノリティとされる人たちに関心があり、そうした人々と関わりながら、映像で社会にアプローチしていけないかと考えるようになりました。

自分たちが自分たちでいられる会社をつくる

私は映像をつくりながら、自分の原点である不登校経験について改めて考え、この先どんなふうに生きていきたいのだろうと考えました。シューレ大学のその先について、仲間と話し合う時間を持つようになりました。それは、当時、イベントや作品などを一緒につくる機会が多かったメンバーです。話し合いを重ねる中で、自分たちが自分たちでいられる会社を作ろうという話になっていったのです。

社会を変えようとする人たちからの依頼が多い

会社を立ち上げた最初の年にビルマのカレン族の難民に、第三国定住先として日本を紹介する映像を制作しました。UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)からの依頼でした。最近行った仕事としては、「ダイバーシティサッカー」※の報告書や障害をいわゆる「障がい者」の問題とするのではなく、社会の問題として捉えようという運動をしている団体からイラストや教材制作があります。

ダイバーシティサッカー ホームレスサッカーチーム「野武士ジャパン」をはじめ、ひきこもりやうつ病の当事者など、社会的不利や困難を抱えた人にスポーツの場を提供している。
ダイバーシティサッカー報告書

私たちの会社が不登校・ひきこもりというところから始まっていることも関係すると思いますが、何らかの形でこの世の中を変えようとする人たちからの依頼が多いように思います。ありがたいことに、特に営業というポジションの人はいないのですが、起業してから現在まで、仕事が途切れたことはありません。

私のままで働く。ワーカーズコープとの出会い

2019年3月のワーカーズコープの集会で、440Hzの活動を紹介しました。参加した皆さんが、温かく聞いてくれるのを感じました。この感覚はシューレ大学で得た安心感に近いものがありました。一言で言うのなら、私は私で良いという感覚です。それは、ワーカーズコープの価値観とシューレ大学との価値観の根底が非常に似ているということがあるように思います。それぞれを尊重しながら学び合うのがシューレ大学の学びであるのなら、それぞれを尊重しながら働くのがワーカーズコープの働き方なのではないかと思います。

試行錯誤していける場

ひきこもりに関しての悲しい事件が続いています。事件を起こしてしまった彼らと私たちとはどう違うのでしょうか。根本は何も変わらない、と思っています。私たちには失敗しても受け止めてくれる場がありました。そして、存分に試行錯誤して、一緒に変わっていける仲間がいました。

今も孤独と苦しさの中にある生きがたさを抱えた、かつての私たちのような子ども・若者に、私が望んだような場があることを願っています。

新しい働きかた:007創造集団440Hz

創造集団440Hzは、全ての人々にとって生きやすい社会になることを目指して活動する「社会的企業」です。 起業したメンバーは「自分から始まる学び・探究の場」であるシューレ大学の修了生です。それぞれ、不登校経験を始めとする多様な背景を持ち、その背景を大事にしながら、「自分から始まる生き方」を実現するために活動しています。映像制作・デザイン・WEBサイト制作・広報サポートなどを行っています。

住所 東京都新宿区若松町28−27
電話 03-6233-9642
URL creators440.org

写真・文=株式会社創造集団440Hz
 協力=シューレ大学