自然の中で育つ―子どもの主体性と心の豊かさを見守る共感者として

鹿児島と沖縄のちょうど中間点にある南の離島、奄美大島。その自然の中にある保育所「森の家くっかる」で、日々子どもたちの成長を見守っている、所長の越間聡美さんにお話を伺いました。

子どもたちの気づきの共感者でいたい

「森の家 くっかる」は鹿児島県奄美市にある森のようちえんです。奄美は、雨が良く降り、森には様々な亜熱帯広葉樹が生息していて、海はサンゴ礁とおひさまのおかげで時間によって多様な色を見せてくれます。そんな奄美の自然の豊かさを、こどもたちの心の豊かさに繋げていって欲しい。私たち大人は、安全の見守りと子どもの気づきの共感者でいたい。くっかるはそんな想いから始まって2009年9月に開所し、今年で9年が過ぎました。

森のようちえん 自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育の総称。

子どもたちは気づきの天才

くっかるに約束事や決まりはあまりありません。その日何をするのかも、みんなで決めます。大人が主導権を握ることはしません。子どもたちは本来、感性が豊かで、気づきの天才だと思っています。その子がその子の心で感じたとき、飛び切りの満足が身体に広がる。その瞬間に出会えたとき、私はとても幸せを感じます。

雨の日が続くと、山すそにあるくっかるの庭は一面水たまりになります。子どもたちは大喜びで雨の中でもざぶざぶと入っていきます。ケンカをしているときでも、一度外に出てしまえば怒りの感情もどこへやら、どれだけイモリを捕まえるか、水たまりの水しぶきを高く上げれるのかなど、頭はフル回転です。
「気持ちよすぎる~!!」とよく叫んでいます。
気持ちいいことや楽しいこと、そして自分の行動で感じることの積み重ねは、きっと彼らを強く育ててくれていると思います。

保護者も一緒に大興奮

くっかるでは年に数回、保護者参加型の保育をします。この時も「何をお母さんたちと一緒にしたい?」と聞きながら決めていきます。タナガ採りに夢中な年には、みんなでタナガ採りにでかけました。保護者もいるため、普段は遠くて行けない大きな川にも挑戦できます。マングローブで泥まみれになりながらシオマネキを見たり、海沿いの山道でホタルを見たり、海の浅瀬に夜光虫を見に行ったりもしました。

タナガ エビの仲間で、正式な名前は手長エビと言います。奄美の方言ではタナガと呼ばれる。
シオマネキ カニの一種。オスの片方の鋏が大きく発達し、これを振りかざす様子が潮が早く満ちるように波を手招いているように見えるため(ウェービング)この名が付いた。

海がキラキラ光る様を見て、子どもはもちろん、保護者も大興奮です。保護者の方がとても楽しそうに参加してくれるのが嬉しいです。それが休日の過ごし方を変化させる事も珍しくありません。タナガ採りに行ったお母さんが、お迎えの時に「あの網は竹のしなりが良くて」「この間のポイントから少しいったらもっと捕れたよ!」なんて情報交換をしていたり、それを聞いていたおじいちゃんが、そんなお母さんたちのためにしなりのいい竹を山から採ってきてくれたり、保護者同士の交流が広がったりもしています。

0歳児から卒園生まで、自己肯定感を取り戻せる場所に

0歳の赤ちゃんほど、お部屋でぐずったりしていても木漏れ日の下ではご機嫌になります。生命の始まりはこんなにも受け止める力を持っていて、まだどこかで自然と繋がっている時期でもあるのだと、両腕にすっぽり収まる小さな身体を抱きながら感動してしまいます。
そんな子どもたちも、大きくなってやがてくっかるを卒園する日がきます。公立の幼稚園とくっかるとは理念が近いため、子どもたち個性を認め合って、自分を大切にして成長していくことができます。

しかし、小学校に行くと何もかもが決められたカリュキラムの枠の中で、個性より協調性や成績が重要視されるようになってしまいます。くっかるでは自分の思いを丁寧に考えることを大切にしてきただけに、このギャップに子どもたちがとても戸惑い疲れているのが分かります。中には先生から、「考えるのに時間をかけすぎる」「豊かすぎる個性が学校生活では…」と言われる子もいました。

一体何をそんなに急ぐのでしょう、これから、この子たちがどんな大人になると想像しているのでしょうか? 疑問を抱かずにはいれません。子どもたちがのびのび育っていける、森の小学校があればいいのにと切に思います。

せめて卒園生たちが休める場所になればと、月に1回「くっかる食堂」を開催しています。何年も食べてきたおばちゃんの、身体に優しくて懐かしいご飯を一緒に食べる事で、自分らしくいた時の事、みんなに愛されていた事を思い出して、自己肯定感を取り戻していける、そんな空間になればと思っています。

奄美の自然に寄り添って 子どもたちに寄り添って

2010年から子どもたちと一緒に蚕を育てる事に取り組んでいます。養蚕の作業所がくっかると同じ敷地にあります。作業所の方々と一緒に畑仕事や海遊びなどをしています。作業所に来ている方は先を急ぐことなく、まさに自分らしさでその時間を過ごしているので、ゆったりとした空気が流れています。子どもたちは、疲れたり友達とケンカして居場所がなくなったりすると作業所に行くことも多いです。

日々、子どもたちは忙しい日常を過ごしがちです。けれど、山から聞こえる鳥の声や虫たちの息づかいが、くっかる全体の時の流れを変えてくれています。朝からいる子どもたちも、時間割に追われた後に学校から帰ってくる子どたちも、全ての子どもたちを優しく受け止められる。これからもそんな居場所でありたいと思っています。

2009年に始まった小さな保育所は、地域での繋がりの中で現在までに〈認可外保育・認可保育所・学童・就労支援B型・学習支援・職業訓練校〉という5つの事業に広がっています。子どもと繋がってから、高齢者、職業訓練生と手をつなぎ、そして障がい者の方とも出会え、みんなが平等に学ぶ機会と学習支援も始まり、今では小さなコミュニティが出来ています。

「みんなが仲間になれたらいいな」

くっかるをスタートする時、最初に込めた願いが、今少しづつ形になり始めてきました。これからも、地域が本来持っている生活力を学び、奄美の豊かな自然に寄り添った働きを事業所の核にしていきたいと思います。

新しい働き方:006森の家くっかる

厚生労働省のふるさと雇用再生事業を活用し、2009年10月に、無認可保育所・学童保育・生活総合支援などの複合的事業所として開所。初年度に預かった5歳の子どもは中学生になりました。成長し大きくなっても生きづらさや困りごとを感じたときに「居場所」になれる事業所を目指して活動中。

住所 鹿児島県奄美市 名瀬小宿1602 たつのり荘101
電話 0997-54-8566

取材協力=森の家 くっかる
 写真・文=越間聡美
 協力=創造集団440Hz・シューレ大学