とことん話し合い。中国から日本へ、自分を抑えずに働くヒント

中国から日本に来て14年。東葛地域福祉事業所で働く宇本永宏さんに、お話をお聞きしました。

異なる価値観を認め合う職場

私は、東葛地域福祉事業所でいろいろな種類の仕事をしています。病院の清掃、設備の点検、電話交換、警備、リネン業務、弁当の配達などです。

私たちの職場では、障がいを持っていたり、それぞれ人生の課題や家庭の事情があるなど、様々な背景を持った人たちが働いています。年齢も18歳から70歳までいます。出身国もいろいろです。フィリピン出身の女性が働いていたこともありますし、私自身も中国出身です。これだけ多種多様な人が集まっていたら、当然、それぞれの人生観や価値観が大きく異なります。意見のすれ違いで口論になることは日常茶飯事です。

そういった問題を解決するために大切にしていることは、話し合いです。常に話し合いをします。しつこいくらい話し合いをします。始めは私も含め、みんな不器用で、お互いに傷つけあってしまうこともありました。私はそれでも諦めずに、話し合いを徹底しようと呼びかけています。

私たちは、みんな不器用だし、様々な課題や困難を抱えている仲間もとても多いです。そのため、相手を傷つけないよう、お互いに気をつけ合おうとしています。遠慮はいらない、けれども配慮をしよう、と言い合っています。

私たちの職場で大事にしていることを下記のようにまとめています。

二つの言わない:(1)人を否定することを言わない(2)人を傷つけることを言わない

二つの言う:(1)素直に自分の意見を言う(2)向き合って言う

二つの聞く:(1)仲間の言うことを聞く(2)特に反対意見を聞く

二つの考える:(1)なぜかと考える(2)誰のためかを考える

自分を押し殺して生きていた

私は中国では、5年制医科大学を4年半まで通いました。しかし大学5年生の時、本当は自分は何をやりたいのか、何をやれるのか、誰のために生きているのかなど、色々考えるようになりました。

卒業しても医師になれない人が多いとも言われていました。こんなに頑張っているのに医師になれないかもしれない。もしそうなら、大学をあきらめて、違う国で違う人生を歩んでみたいと思うようになり、日本に来ることを決意しました。

私が来日したのは、2004年4月のことです。そして、日本語学校、大学を経て、2012年4月ワーカーズコープに入りました。

一口に中国人といっても、実は地域ごとに違った特性があります。私は中国東北出身なのですが、東北人は、「熱血」とでも言うのでしょうか、すぐに火が付いてしまう特性と言われています。

私は日本で過ごす中で、ここで生きていくためには協調性が必要だと感じるようになりました。これまで公共施設で中国語を喋るだけで、警察に職務質問をされたことも何回もあります。外国人登録カードは肌身離さず持っていなければいけません。日本の環境に溶け込もうと努力してきました。その結果、私は常に空気を読み、自分の意見を押し殺し、本音を言わなくなっていきました。私は、とにかく日本人っぽい外国人になろうとしていたのです。

押し殺していた自分が解放される

着任してすぐのころは、清掃の技術や知識は何もありませんでした。先輩にも「なんも学んでないなぁ」と言われたり、首にタオルを巻いて仕事をしていたところ「病院の中で首にタオルを巻いて、みっともない。草むしりじゃないよ」と言われるなど、怒られる日々が続きました。

それでも、先輩たちは励ましてくれたり、時には美味しいおかずをくれたりするなど、とてもやさしくしてくれました。その温かさはいまだに忘れられません

そんな先輩たちの厳しさや優しさに触れながら、話し合いや対話を大事にしているワーカーズコープの文化に馴染んでいく中で、少しずつ押し殺していた状態から解放されてきました。そして、自分の言いたいことを、相手に伝える努力を重ねました。同時に、この現場のために何をやるべきなのか、何がやれるのか、何のためにこの職場にいるのか。こうしたことを改めて考え始めました。

参加者ゼロ! から少しずつ広がって

2018年3月、子ども食堂ネットワークがスタートしました。ワーカーズコープが事務局を担い、千葉県流山市で活動している団体が参加しています。私たちは同じ年の5月から「キッチン菜の花」で子ども食堂を始めました。

しかし、いざ始めて見たら、財源がない、資源がない、お客さんがこないと、ないないづくしの状況でした。そして、なんとも皮肉なことに、当初は「子ども食堂」でありながら、子どもの参加がゼロでした。

それでも、子ども食堂ネットワークの活動が日に日に注目されるようになってきました。新聞や広報にも紹介されることが増えてきて、寄付も集まってきました。そして、キッチン菜の花も始めてから1年が過ぎたころから、少しずつ地域に知られるようになりました。今は、地域ボランティアの方にたくさん関わってもらっています。今後も、持続可能な形で運営をしていきたいと思っています。

ありのままの自分でぶつかればいいじゃないか

2018年7月、私は所長に就任しました。はじめは、こんなに多くの人が働く事業所の所長が、自分に務まるのだろうか、と不安でした。しかし、そう思ったとき、ふと一つのことを思いついたのです。

本来の自分は中国東北人です。熱血東北人なのです。本来の自分をありのままに生きていけば、ありのままの自分で仕事にぶつかれば、それでいいじゃないか、と。飾りなく、格好つけることもなく、それでいいと思いました。ただその想いで、この1年間所長として走ってきました。今私は、東葛の仲間たちと共に、喧嘩あり、涙あり、笑いありの充実した日々を過ごしています。

新しい働き方:004東葛地域福祉事業所

1987年7月の東葛病院の開院と同時に、ワーカーズコープ(当時、直轄事業団)の事業として病院清掃、設備等の業務を受注したことからはじまった。ワーカーズコープセンター事業団発祥の地。病院のビルメンテナンス関係の業務を中心に行っている。就労支援にも積極的に取り組み、数年前から、流山高等学校(特別支援学校)の清掃講座の講師、多方面から就労体験の受け入れを行っている。

電話 04-7159-5749

取材協力=東葛地域福祉事業所
 文=宇本永宏
写真=荒井絵理菜
 協力=創造集団440Hz・シューレ大学