まちのお豆腐屋さんを立て直せ

埼玉県所沢市の森の102(とうふ)工房(以下とうふ工房)の須賀貴子さんに、工房の立ち上げ経緯についてお聞きしました。

始まりは1本の電話から

ある日、ワーカーズコープの本部に1本の電話がかかってきました。

「私たちのとうふ屋を立て直してもらえませんか」

お電話してきたのは、所沢市で個人経営のとうふ屋を営む太陽食品工業の橘さんでした。

ワーカーズコープの運営する「深谷とうふ工房」をテレビで見て、ここなら、力を貸してくれるのではないかと考えてのことでした。

ワーカーズコープの北関東事業本部会議で検討しました。

その時期は、社会的にも派遣村や働きたくても働けない若者などが問題として大きく取り上げられている時であり、ワーカーズコープは、全国各地で厚生労働省の「緊急人材育成支援事業」を開講していました。

「とうふ屋を立て直したい」という「地域ニーズ」と「働きたくても働けない」という「社会課題」を併せて、「まちのとうふ屋復活」と「自分たちで働く場をつくる」ことを目指した基金訓練を所沢市で開講することにしました。

講座がはじまると、本当に様々な方たちが参加してきました。長く働くことから離れていた方、障害手帳は無いけれど何らかの障がいがある方、派遣を転々としていた方、重度の精神障害の方などです。

立ち上げにあたって、1週間のシミュレーションをしました。
その一週間では、目標とする製造数、販売数をこなすだけで精いっぱいでした。その上、1週間勤務したのは、私と所長含め3名のみでした。
現実を目の当たりにしながら、改めてみんなで目標を決めて立ち上げを目指しました。

そして講座終了から半年が過ぎた2012年7月、森の102(とうふ)工房がオープンしたのです。

自分たちで顔の見える関係で販売できる場所を

開所当初から「閉鎖対象事業所」と言われ、とにかく、赤字を減らすこと、売上を上げることに奔走しました。

出張販売先を探すことに始まり、バイヤーとの交渉や出張試食販売会など、とにかく私たちのとうふ・湯葉が置けるなら場所を問わずに販売に出かけました。

そうすると、少しずつ販路は広がっていきました。

しかし、その一方で、目先の売上を重視するようになり、だんだんと働く仲間は疲弊していきました。

多様な仲間が自分らしく働ける場を自分たちでつくろうと始まったはずなのに、販路が広がることで一般企業のようになってしまうというジレンマを感じました。「弱さ」を出すことができず去っていく仲間もいました。

いつしか「理念」と「経営」の間で板挟みになっていたのです。

私たちは、このままではいけない、と話し合いを重ねました。

そして、ただむやみやたらに販路を広げるのではなく、自分たちで顔の見える関係で販売できる場所をつくろうということを合意しました。この時の議論が、2018年1月の「狭山ヶ丘店」オープンにつながっていきます。

誰もが社会や人に必要とされる・認められる仕事をしたいと望んでいる

とうふ工房の会議の中で、とうふだけではなく、豆乳やおからを使ったお菓子も作りたいという声があがりました。また、とうふ工房で働きたいという方が増えていることもあり、2015年10月、より多様な人が働けるようにと、「森のとうふ屋さんの手づくり菓子工房」(以下菓子工房)を新たにオープンしました。

菓子工房のテーマは、「まちのお菓子屋(ケーキ屋)さん」になりました。可愛らしく、お店に入るとバターと卵の香りが充満し、年齢関係なく心が躍る場所をイメージしました。

障がい者の為のケーキ屋ではなく、どこにでもあるまちのケーキ屋さんに障がいのある人も一緒に働いている。そんな風景が自然な社会になってほしいという願いを込めました。

菓子工房の看板メニューは、国産大豆の豆乳とおから、北海道産小麦100%を使用した豆乳シフォンケーキです。試作を何度も重ね“シフォン”という名前のついたケーキやカフェを見つければ、躊躇なく食べ歩き、つくりあげました。

それは、これまでのとうふ工房での経験から、「障害」を売りにしても決して買ってもらえないこと、とうふの味よりも先に見た目や店構えが大切なこと、そして素人であるからこそ本物を使うことの大切さ、何より障がいの有無に関係なく社会や人に必要とされる・認められる仕事をしたいと誰もが望んでいることを肌で感じていたからです。

先日、大宮で行われた焼き菓子コンテストに出場しました。菓子工房は、狭山茶ほうじ茶を使ったおからビスケットを出品しました。当日の発表は、菓子工房の良さが十分伝わる”笑い”と”優しさ”溢れるものでした。コンテスト会場までは行けない仲間も、その日に地元で開催されたイベントのお手伝いに駆けつけてくれました。菓子工房の一人ひとりがぞれぞれの役割を一生懸命取り組みました。その努力が実ったのか、埼玉県洋菓子協会賞を受賞しました。それ以上に菓子工房の良さが発揮された一日でした。

「支援する-されるの関係」ではなく「ともに働く仲間」として

森のとうふ工房は、障がいの有無や「支援する-されるの関係」ではない、「ともに働く仲間」としての関係性を大切にしています。全員が同じように仕事ができるわけではなく、誰もが得手不得手をもち、お互いに配慮しながら働いています。

仕事での失敗も、その原因を状況から判断する事はしません。その人のこれまでの職歴、職場での人間関係など、一人ひとりの生活環境や生い立ちも考慮して、失敗を責めるのではなく、一緒に考え、できる方法を見つけようとしてきました。そうした配慮は、結果的に誰にとっても働きやすい職場になるように感じています。

菓子工房でも、毎月「運営会議」を行い、経営状況の共有、商品開発、事業所の年間目標等を全員で話し合って決めています。経営については、はじめはついていけない人も多くいました。それでも、続けていくうちに売上と支出や赤字か黒字かという事が段々と理解できるようになってきています。障がいがあって福祉就労をしていても、一緒にお菓子を作って販売しています。立場や役割は違っても、私たちは「ともに働く仲間」です。だからこそ全員で責任を持って事業所を良くしていくことは大切だと感じています。

新しい働き方:002森の102屋さん手作りお菓子工房

埼玉県所沢市で、とうふと菓子製造・販売を行っている。
菓子製造は就労継続支援B型を活用して運営。就労者数は44名(内組合員21名、就労継続支援B型登録23名 6月現在)。事業所立ち上げて7年目を迎える。開所当初より「一人ひとりの働きたいをカタチに」を理念に掲げ、障がいの有無関係なく、一人ひとりが事業所の主人公・主体者となることを大切にして運営をしている。
Premium Quality Cup 2019 in SAITAMA 第10回焼き菓子コンテストにて、「狭山茶焙じ茶のおからビスケット」が埼玉県洋菓子協会賞受賞。
2017年から農業にも取り組み始め、地域の中で「つくること・食べること・働くこと」が循環する仕組みづくりを生活クラブ生協や地元NPO、研究者等と目指している。


住所 埼玉県所沢市中富1730-10
電話 04-2968-8512

取材協力=森の102(とうふ)工房
 写真・文=須賀貴子
 協力=創造集団440Hz・シューレ大学