障がいがあってもなくても、お互いを受け入れ合える地域を目指して

栃木県矢板市にある放課後等デイサービス「りんごの木」の小白井加代子さんにお話を伺いました。

放課後等デイサービス 障害のある就学児向けの学童保育のようなサービスです。放課後等デイサービスは施設の設備、目的、提供されるサービスは多岐にわたり、療育をやっているところや運動に特化したところなど様々です。

地域と輪になる夏まつりin長井

2018年夏、旧長井小学校には、約300人が集まりました。子どももいれば、お年寄りもいます。障害を持っている人もいれば、ない人もいます。共通しているのは、みんなこの地域に関わる人たちということです。焼きそば、カレーライス、かき氷、コマ回し、水風船、ネイルアートなど、様々な出店が立ち並び、みんな思い思いに過ごしています。

体育館のステージの上では、地元のデュオが自作のポップスを披露しています。伝統芸能、子どもの披露と続いて、色とりどりの衣装を着たダンスサークルが、会場を飲み込むようなダンスをしました。体育館に拍手と歓声がこだまします。

2009年に私たち「りんごの木」が、地域のみなさんと一緒に始めた「地域と輪になる夏まつりin長井」も、昨年で8回目になりました。今や長井自治会の行事のひとつにもなっています。まさに地域の夏まつりになりつつあるのです。

障がいがあっても通える場所が欲しい 

りんごの木のはじまりには、ある親子の切実な思いがありました。

那須塩原市の放課後デイサービス「こども館くれよん」(以下くれよん)に通うダウン症の女の子がいました。この子のお母さんは保護者会のたびに「矢板市には障がい児が通える施設が1か所しかなくて、預けたい時に預けられない」「矢板市にもくれよんのような施設が欲しい」と、言っていました。

当時くれよんで働いていた私たちは、この願いを実現したいと考えました。そして、旧長井小学校の廃校の活用提案を矢板市が募集していることを知りました。

建物も木造で温かみのある校舎を見て、私たちは、ここなら障がい児のデイサービスを行いながら町づくりも一緒にできると考え、市に企画書を提出しました。その企画が見事通り、ついに、矢板市に障がい児の通える場、りんごの木を開所することができました。

誰もがお互いを受け入れ支え合える、そんな地域をめざして

放課後等デイサービスは高校3年生までしか利用ができません。しかし「この子たちの将来も見守っていきたい」、そんな思いが私たちの中でどんどん強くなっていくのを感じていました。2011年から矢板市自立支援協議会へ参加する中で見えてきたのは、矢板市に障害福祉サービスが少ないことによって、当事者たちは市外へ出ていかざるを得ない現実でした。私たちはその状況を変えるため、地域活動支援センター(以下センター)を立ち上げようと準備を始めました。

2018年、ワーカーズコープは、「みんなのおうち構想」を打ち出しました。「みんなのおうち」とは、その名の通り、その地域で働く人たち、地域で生活する人たちみんなの居場所であり、そこではそれぞれの人々は、自分の願いや想いを存分に語ることができ、みんなで力を合わせてその願いを一歩一歩実らせていく場所なのです。

「みんなのおうち構想」は、まさに私たちが望む長井地域の姿そのものでした。センター利用者だけでなく地域の人みんなが集まることができ、障がいがある人もない人も一緒に過ごし、地域の困りごとをみんなで解決していくことが出来る場所、みんなが楽しい場所、一人一人の想いが実現できる場所、これこそが私たちの「みんなのおうち」なのです。

それまでは、センター立ち上げを地域の方たちに説明して協力をお願いしても、なかなか理解されず、会合を開いてもそれほど人数が集まりませんでした。しかし、「みんなのおうち構想」を元に、センターの必要性を語り始めると、その思いに共感してくださる方が増えていきました。そしてついに、2019年2月に「地域共生拠点みんなのおうち・地域活動支援センターながみね」が開所しました。

参加する人みんなが元気になる食堂

りんごの木の活動の一つに「みんなの食堂」があります。これは、矢板駅で女子高生が赤ちゃんを産み落とす事件があったことがきっかけでした。なぜ、あの子は命を粗末にしてしまったか? 誰にも相談出来なかったのだろうか? 彼女の様子に気づく人はいなかったのだろうか? これは、彼女一人の問題ではなく、こうした社会にしてしまった大人にも原因があるのではないかと思いました。

全国には子ども食堂が広がっています。しかし、困っているのは子どもだけではありません。

矢板市は一人暮らしの高齢者も多く、食の貧困、一人で淋しく食事をしている人、偏った食事など、問題は沢山あります。人の心は、沢山の人との関わりの中で育ちます。子どもだけではなく、地域の人みんなが食事できる場所として、「みんなの食堂」がはじまりました。

ある日、ボランティアにきた中学生がぽつりと「ここにきて、私が必要とされていると感じた」と言いました。話を聞くと、彼女は学校でずっといじめにあっていたようでした。少しずつでも、みんなの食堂が、みんながお互いに必要とされている場所になってきているのを感じた瞬間でした。

障がいがあっても無くても、地域の中で育てていきたい

りんごの木のこども達が市内で買い物をしていると、地域のみなさんが声をかけてきます。お母さんはその光景を見て、自分の子どもが、そして自分たち親子が、地域に受け入れられていると感じます。この地域でも障がい者・児への偏見は未だ残っています。それでも、だからこそ、誰もが地域の一員でありお互いを受け入れ支え合える、そんな地域をめざして私たちは、みんなのおうちをつくったのです。

「障がいがあっても無くても、地域の中で育てていきたい」

この言葉は、りんごの木を作るきっかけにもなったダウン症の女の子のお母さん言葉です。この言葉は、今も強く記憶に残っています。これからも、この言葉を胸に、私たちの活動を伝えていきたいと思っています。

新しい働き方:001矢板地域福祉事業所

りんごの木は栃木県矢板市長井にあります。旧長井小学校を廃校活用しています。2011年から放課後等デイサービスりんごの木(現)や地域のたまり場、介護予防マシン教室等おこなっています。
場所:栃木県矢板市長井1171-4
電話:0287-43-0424
2019年に地域共生拠点みんなのおうちが完成。障がい者(児)や健常者、子どもから若者、高齢者、誰もが集い地域づくりを担える場所。カフェ花りんご、地域活動支援センターも併設しています。
住所:栃木県矢板市末広町7-1
電話:0287-48-7880

取材協力=矢板地域福祉事業所
 写真・文=小白井加代子
 協力=創造集団440Hz・シューレ大学